まえがき(2008年6月)

物質に対応する英語はmaterial, matterであり、その語源はラテン語materiaである。これは同じくラテン語の母materに由来する。mater+ia(iusの複数)は、母に属するもの、母から導かれるものを意味し、本部会が科学リテラシーとして扱おうとする対象が、いかに根源的なものを包括しようとしている言葉であるかが分かる。他の専門部会が、抽象化された概念(数理、人間科学)や物質システム(生命、技術)を扱い、あるいは実験によって証明することが困難(宇宙・地球)な現象を扱うことが多々あるのに対して、物質科学部会では「具体的で認識しやすい物質の科学」のリテラシーを考える。物質科学の体系の独立性に注意しつつ、科学全体の「基礎」としての物質科学の役割も考慮して、物質科学の全体を俯瞰する。特に生命、宇宙・地球、環境、技術との接点の多い分野なので、連携をはかる必要はあるものの、若干の重複はあっても止むを得ないと考えている。報告書作成に当たっては、下記の点に留意することとした。

1.物質とエネルギーの観点を重視する。物質は固有のエネルギーをもち、様々なエネルギーの担い手である。エネルギー資源の根源でもある。

2.生活実感に結びついた物質・現象を選択し、物質科学が現代の生活の基礎にあることを説明する。科学の体系、科学的認識とその獲得、科学をする思考とプロセス、先端科学技術の到達度などについて記述したい。物質およびエネルギー利用の歴史についても触れる。

3.現実的生活の中での物質科学リテラシーの一側面として、似非科学、科学者の実像などについても、コラム欄において触れる。

4.日本人独自の物質観に留意する。これらは産業化及び都市化の拡大によって失われかけているが、Sustainableな価値観の復活で生まれ変ろうとしている。

1)物質循環と生命の輪廻転生思想、無常観。

2)「もったいない」思想(転用・使い回し・カスケード利用)。

3)文化と文明が混然一体となっている。

4)自然界の全てのものにそれぞれの神が宿る(vs.西欧の全能の神の意思)。

5.日本(文化)の特徴をもった素材を使いたい。例えば、「身の回りで利用される物質」の中では、紙や木などの物質を通じて伝統的考え方について物質科学の視点から記述する。その他の物質系として、塗料(漆、朱)、接着剤(膠、糊、布海苔)、セラミックス(陶磁器)、住(木材、竹、わら、檜膚、紙、漆喰、床下を風が抜けていく作り)、食(発酵食品、糠味噌)、衣料(和服の仕立て縫製、染色)、扇子、葦簀、風鈴 他。

6.コニカル・スパイラルなイメージ図で示すように、スパイラルアップの記述体系とする。

ただし、4.と5.の趣旨は本報告書では必ずしも十分に汲まれているとは言えず、今後の定着化活動において生かしていきたいと考えている。