1.3 身近な技術と物質・材料

人間の歴史は身の周りの物質とエネルギーを工夫して利用することにより発展してきた。我が国では伝統的に、衣服は木の繊維と草木由来の染料を用い、和服は仕立て直し染め替えにより、世代を超えて着用されることが多かった。住居の材料は木材や竹、藁(わら)、茅、檜膚、紙、漆喰、陶器であり、膠、糊、布海苔が接着に用いられた。また高温・多湿でも快適さを保つため、窓は大きく、床下を風が抜けていく作りである。これらの伝統的な素材はコンクリートに囲まれた現代の無機質な生活の中で、われわれに潤いを与えるものである。近年、持続可能な発展(Sustainable Development)が世界的に重要視されるようになり、効果的・効率的な物質変換と機能発現を実現している生物機能の活用が注目されている。その基本原理は「様々な資源を再生のスピードより早くは消費しない、また廃棄物は自然が吸収できる以上には放出しない」ということである。我国の伝統的材料の多くは、土にかえる生分解性をもち、この持続性の精神にも合致していた。地球環境を持続しつつ人類の文明を発展させるためには、この伝統を守りながら、我々の身の周りの材料の革新を進めていく必要があり、そのための有効な科学的基礎として、物質・材料科学が重要である。