2.1 自然の原理、法則

物質の世界は全て自然の法則に従っている。

物体の力学的運動はニュートン(Isaac Newton)の運動の法則(古典力学の法則)に従う。「力」は我々が日常生活の中でしばしば感じることができる。物を持ち上げようとして筋肉を収縮させて「力を入れる」とき、ひざや太ももに「力を入れて」坂道を登って行くとき、などである。「物体に外部から力が働かないとき、その物体は静止しているか、等速直線運動をする」。これを「運動の第一法則」あるいは「慣性の法則」という。一見すると当然のようにも見えるが、地球からの引力の影響から逃れることはできず、また我々の周りには「摩擦」という現象があるため、外部から力が働かないという状況は本当には実現しがたい。このような運動の法則に人類が至るためには、多くの時間と観察と洞察力を要した。「物質の速度の時間変化は、外力に比例し、質量に反比例する」というのが、速度の時間変化(加速度)と力を結びつける「運動の第2法則」である。これも電車が走り出すとき、あるいはブレーキをかけるときに、踏ん張ることで、あるいはエレベーターが動き出すときや止まるときに体に感じる自分の重さで、日常的に経験している。さらに、水をかいて泳ぐとき、あるいは他人と引っ張りっこするとき、作用・反作用の仕組みを感じ、「運動の第3法則(作用・反作用の法則)」を経験する。このように「古典力学(ニュートン力学)」を日常生活の中で体感することは多い。

大きさをもった物体の運動は、重心の運動と、重心の周りの回転および、物体を構成する部分の間の振動(あるいは変形)運動の自由度に分けられる。変形する物体や液体、気体に関しては、物体の連続体としての側面に注目して、弾性体論、流体力学などの形で記述され理解される。

物質は、原子核と電子からなる原子によって構成されている。電子や原子の運動は量子力学の法則に支配されている。熱的な現象も、古典力学と量子力学とでは異なる。物質の熱的性質、例えば比熱において、低温では量子力学的な側面が顔を出してくる。電子やあるいは1つ1つの原子では、充分低温にして周りからの熱による擾乱を抑えると、回折、干渉などという波動の性質と考えられている現象が現れてくる。したがって量子力学では、粒子の状態を波動関数という概念を用いて、その回折や干渉の現象までを含めて記述する。量子力学的波動は、振幅だけでなく「位相」が重要になる点で、古典的波動とは大きく異なる。電磁波(光)でも観測を充分精度良く行えば、光の粒子である光子の1つずつを実際に観測することもでき、しかもそれが干渉を示すことを観ることもできる。このことを、朝永振一郎は「光子の裁判」の中で分かり易くかつ美しく一般向けに書いていて、興味深い3。量子力学に従って物理法則を記述するとき、必ず現れるのがプランク定数(h=6.63×1034 J s(ジュール・秒))である。量子力学の形式においてhをゼロにする極限で古典力学に帰着させることができる。

物理現象を記述するとき、粒子像にのみ頼ることはできない。電磁波やあるいは沢山の電子のある状態を「場」として記述する必要もある。それは、量子力学では複数の電子の一つ一つを区別することは原理的に不可能であり、電子と陽電子が衝突・消滅して光が放出されるように、粒子の生成消滅があるためである。「場」の概念は、連続体力学や相対性理論にも通じるものである。

一方、巨大な天体の運動や宇宙の運動法則は相対性理論に従う。また原子核反応では、アインシュタイン(Albert Einstein)の関係式E= mc2に従って物質(の質量)とエネルギーが相互に転換され、巨大なエネルギーが放出される。

長さのスケール、エネルギーの大きさなどにより、現象を支配する物理法則が異なる。これをマルチスケール、マルチフィジックスなどということもある。これは記述の仕方が変わるのであり、ニュートン力学や弾性論、流体力学、量子力学、相対性理論を互いに矛盾した法則であると考えるのは正しくない。すでに述べたようにプランク定数をゼロにする極限で、量子力学は古典力学に移行するし、光速を無限大にする極限で、相対性理論は古典力学に移行する。粒子像と連続体描像に関していえば、コップの中の水の全体の動きや川の中の水の流れを、一つ一つの水分子の運動により記述しようとするのは、意味のあることとはいえない。むしろ水としての流れの法則(流体力学)に従って記述してこそ、境界に沿った流れ、渦の姿、淀み、などの、流体としての特徴を正しく捉えることができる。

音と光はともに波動としてエネルギーを伝搬するが、エネルギーの担い手が異なっている。音波は、音が伝わる物質内の一つ一つの分子が担い手となり、力学的相互作用を通じて、物質の振動として伝播していく。したがって空気の無い真空中では音波は伝わらない。音波の伝わる速さは、伝える物質の状態によって異なり、一般に、気体、液体、固体の順に速くなる。空気を介して会話している時の音の速さは1秒間に340m程度であるが、気温が高いとさらに速くなる。音波が発せられあるいは届くときに音源または観測者が運動していると、音の波長が変わり音の高さが変わる。これを音のドップラー効果といい、救急車や新幹線がそばを通り過ぎる時などに体験することができる。光(電磁波)でもドップラー効果は生じ、星の地球との相対速度の測定に用いられる。また音波は伝わる間にエネルギーの一部が熱に変換されるため、広い範囲には到達できない。

図1 電磁波の波長と長さスケール[1]

地球生命は太陽の光(電磁波)のもとで進化し、光をエネルギー源として使う精緻なシステムをつくってきた。電磁波は質量をもたないがエネルギーを担うことができる。電磁波は、空間電場磁場の変化によって形成される波である。電界と磁界がお互いの電磁誘導によって交互に相手を発生させあうことで、空間そのものがエネルギーをもって振動する状態が生まれて、波を伝える媒体となる物質が何も存在しない真空中でも一定の光速度c(毎秒29万9千800キロメートル)で伝わって行く。電磁波は真空中を直進するが、物質が存在する空間では、吸収、屈折、散乱、回折、干渉、反射などの現象が起こる。電磁波の性質は、波長、振幅(電磁場の強さは振幅の二乗)、そして伝播方向などで決まる。光の振動数をν(単位s-1)、波長をλ(単位m)と書くと、光のエネルギーはE==hc/λとなって波長に反比例する。波長によって物体に及ぼす作用が少しずつ異なってくる点に着目して、電磁波は違った呼び名を持つ。波長の長い方から、電波(ラジオ波、マイクロ波)、赤外線、可視光線、紫外線、エックス線、ガンマ線などと呼び分けられている。われわれの目で見えるのは可視光線のみであり電磁波全体の中ではきわめて狭い領域に対応する。可視光線の色は、波長の短い側から順に、青紫、紫、青緑、緑、黄緑、黄、黄赤(橙)、赤である。赤い光の波長は625-740 nm、緑は500-565 nm、青は450-485 nmに対応する(1 nm=109m、ナノメートル)。光の水滴に対する屈折率は波長により異なり、そのため空中に浮かんだ水滴により太陽からの光の色が分かれたのが虹である。電磁波の挙動は1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェル(James Clerk Maxwell)により理論的に予測され、マクスウェルの方程式として体系化された。

 

[1] 江馬一弘氏作