2.2 物質の変化の原理とエネルギー

物質は温度と圧力に応じて、固体、液体、気体という異なる状態(相)をとる。温度や圧力に応じて複数の相が一定の割合で混じった状態をとることもある(共存)。温度や圧力を変えると、この平衡状態が移動する。物質のある相が別の相に変化(相転移)することに伴い、物理・化学的量(密度、原子の配列、様々な物性値)が不連続的に変化する。化学変化では、酸と塩基の反応、水の電気分解、石油の燃焼のように、物質が別の物質に変化する。

「ゆく川の流れは絶えずして しかも元の水にはあらず

よどみに浮かぶ うたかたは

かつ消えかつ結びて 久しくとどまりたるためしなし」

鴨長明は、つねに流れ続ける川の水に、定常状態にはあるけれども変化し続ける世界を読みとろうとした。日本人は古くから、自然や人の世の移り変わりに注目してきたようである。ところが、西欧で誕生した自然科学は、「変わらぬものは何か」に注目してきた。そして変化する自然の中に「不変の何か」を見つけようとした。そうして生み出されたのが、「物質不滅」という考え方や、「原子論」、「質量保存の法則」、「熱量保存の法則」、「エネルギー保存の法則」などといった一連の「保存の法則」を基盤とした自然科学の理論体系である。

不変な何かに注目して世界を科学的に理解するための鍵となる概念を二つ挙げるとすれば、「物質」と「エネルギー」であろう。人類がこれらの概念を創造したことで、物体の運動、物質間の反応と変化、電気や磁気にかかわる現象、生命現象、大気の現象、地下や地表の現象、宇宙の現象などを関連的・統一的に記述し、説明するができるようになった。

エネルギーは物質ではなく、例えば「石油」自体はエネルギーではない。しかもエネルギーは「力」とも区別されている。物質でも力でもない「エネルギー」という概念を創造し、それによって物質の様々な変化を説明できるようにしたところに人類の英知がある。

エネルギーは、何もないところから生まれることはなく、それが消滅することもない。ある形態のエネルギーがなくなるときには、必ずそれと等しい量の別の形態のエネルギーが生まれる。これは、「エネルギー変換」と呼ばれ、エネルギーが何度変換されても、エネルギーの総和に変化は生じない。エネルギーのこのような性質は、「エネルギー保存の法則」、あるいは「熱力学第1法則」と呼ばれる。

他の外力(例えば引力)に抗して力を加えて物質を移動させ、「物質の位置のエネルギー」が変化したとき、「加えた力が物質に対して仕事をした」といい、移動の前後の物質のエネルギー差は、この仕事で与えられる。したがって、「仕事」と「エネルギー」は等価であり同じ単位で計られる。またこの例では、「仕事」とは二つの状態のエネルギーの変化ということができる。この場合、二つの状態のエネルギーに「仕事」を加えれば、それぞれの状態での全エネルギーは変わらない。

日常生活でのほとんどのエネルギー変換には、熱の出入りが伴う。例えば、自動車のエンジンのような熱機関は、ガソリンや軽油を燃焼させて熱を生み出し、その熱(の一部)を「仕事」として運動エネルギー(自動車の運動)や位置エネルギー(坂を上る)に変換する。この場合を「熱エネルギー」から「仕事」に変換するといい、運動エネルギーや位置エネルギーの変化に、変換されなかった熱を含めたエネルギーの総和は変わらない。投入した熱エネルギー仕事電力などに変換される割合を「熱効率」という。無からエネルギーを生み出すことはできないので、エネルギーの補給なく永久に動き続ける「永久機関」を作ることもできない。

エネルギー変換について考えるとき、もう一つ大切なのが「熱」の特殊性である。あるエネルギーを、すべて熱に変えてしまうことは簡単であるが、熱を単純に全部他のエネルギーに変えることはできない。熱のこのような性質は、「熱力学第2法則」と呼ばれている。そのため、熱機関では、発生した熱のかなりの部分がそのまま捨てられることになる。例えば、ガソリンエンジンでは、ほんの25%程度のエネルギーだけが有効利用され、あとは最終的に熱として放出される。このように、どんなエネルギーも最終的には熱に変換されてしまう。このことから、熱はもっとも利用しにくいエネルギーと考えられている。必要なエネルギー利用に対して、熱効率を如何にして高くするかということは、科学技術の大きな課題である。

熱の移動の現象は熱力学のエネルギー保存法則に従う。仕事として取り出すことのできるエネルギー量は熱力学第2法則に支配され、これに関係して、物質構造の規則正しさを表す「エントロピー」の概念が必要である。エントロピー概念は情報科学における情報量という概念にも利用されている。また、物質科学の学問である熱力学、統計力学は、生物進化、経済現象、政治現象の理解にも応用されている。

エントロピーとは物質の熱力学的な「乱雑さ」を示す量である。一つの平衡状態にある系に対して、平衡状態であることを変えずにゆっくりと(体積などの)変化を与えて(したがって途中で熱の流出、流入があってもよい)、他の平衡状態に移行するとする。このときそれぞれの状態は、その中間にどのような過程を通ったかに依存せず特徴付けることができる。その特徴付ける状態量をエントロピーという。熱の正味の流入、流出があればエントピーは二つの状態間で変化する。また、二つの状態の間の変化の過程で熱の流入、流出がなければ、エントロピーは減少することはない(エントロピー増大の法則)。熱が吸収されれば、その系のエントロピーはその分(熱を熱源の温度で割った分)だけ増加する。エントロピーはその系の乱雑さを示す量であるから、このとき熱を吸収して系の乱雑さが増加することになる。絶対温度0Kのとき(完全な静止の状態であるから)、エントロピーはゼロであると考えてよい。

平衡状態にある物質の変化に注目すると、物質には、その系を保つ働き(ルシャトリエの原理)があることに気づく。平衡状態にある物質に、温度、圧力、成分の量など状態変数を変化させると、その変化を相殺する方向に平衡が移動する。この原理は、状態変化にも化学変化にも当てはまる。例えば、物質の温度は外から熱を加えると上昇し、熱を奪うと下降する。しかし、氷と水が共存する相の境で熱を加えても、氷が溶け始めるだけで、温度は上昇しない。このような動的平衡、緩衝作用は、生命のホメオスタシス、地球上の生態系の種と数のバランスなどにも適用できる。

人類が使用するほとんどすべてのエネルギーの根源は、太陽内部の核融合で放出されるエネルギーか、地球内部の放射性物質の崩壊(原子核分裂)に伴って放出されるエネルギーのどちらかである。太陽内部の核融合のエネルギーは、赤外線、可視光線、紫外線、その他の電磁波として地球に供給される。太陽からのエネルギーの約30%は雲や海洋、極地の氷などにより反射される。残りの太陽エネルギーは地球を暖めることにより、大気の動き、海洋の動き、生命活動(光合成を含む)などのエネルギー源となり、風力、水力、波力、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料、バイオ燃料などのエネルギー源となる。放射性物質の崩壊エネルギーは、地熱の大部分及び原子力発電のエネルギー源となる。現在使用されている石油、天然ガス、石炭などの化石燃料は、非常に長い年月をかけて、太陽光を使って植物が光合成したバイオマスを地下の物質に蓄えたものである。