2.3 身の回りで利用している現象

我々は物質の性質を機能として利用し、あるいは物質を通じて様々な物理、化学現象を利用している。例えば電気冷蔵庫は、気化という現象(気化熱)を利用している。

電磁波による電場と磁場の変化は、金属中の自由に動き周る電子を運動させ、電流が発生する。これを利用したのがアンテナで、テレビやラジオ、携帯電話などはこれを利用している。電子部品への電磁波の影響が予想され、あるいは影響を十分予期できるものではないため、予期せぬ事故を防止するために心臓ペースメーカー装着者の近辺や航空機内などでは、電磁波を発生させる機器を使用してはならないことになっている。周りを導電性の物質で密閉すれば電磁波がその内部に進入しない。これを電磁波遮蔽(シールド)という。また電磁調理器では電磁誘導で金属中に誘起された渦電流の性質と磁性体の特徴を組み合わせるなど、様々な工夫がなされている。現在、広く使用されるようになった非接触型ICカードでも電磁誘導を利用してICチップ自身の動作に必要な電流を得ている。

交通信号機に広く利用されている発光ダイオードでは、素子の両端に電圧をかけると、その中に電流(一端からは電子、他端からは正孔が注入されて電流が生じる)が生じ、電子と正孔が結合して発光する。そのため、光の単色性や方向性に優れ電球に比べて遠くからでも見易く、またほとんど全ての電気エネルギーが光に変換されるなどの優れた性質がある。発光の色(波長、エネルギーと言い直してもよい)が後述する個々の物質のエネルギーギャップによって決まる。太陽電池は発光ダイオードと逆の現象を利用し、光を吸収して電流(電子と正孔の流れ)に変える。太陽光から電流への変換効率が優れた材料として開発されるようになり、広く用いられている。現在、多くの工業製品に組み込まれ、またロボットの眼や触覚に用いられるセンサーやアクチュエーターも、材料物性の変化を巧みに機能として利用したものである。

物質科学の医療機器への応用、医療そのものへの応用も著しく発達している。核磁気共鳴画像法(MRI)では原子の外部磁場に対する核スピンの共鳴信号を観測するものであり、医療に用いる場合には人体を作る水の水素原子核の信号を計測している。また近年注目されているのが脳機能の診断に用いる‘機能MRI’(functional MRI)や近赤外線分光法である。これは、脳内血液中のヘモグロビンの酸素結合状態(磁気状態)をMRIあるいは近赤外分光で計測する。

【コラム1】似非科学

現在の科学は、専門性が深まり、それに携わっていない人には理解が難しいことが多くなっている。一方では、科学に興味を持ち勉強することが格好悪いこと、理屈っぽくなって異性にもてなくなる、と避けたがる傾向があるといわれる。このような理由が結果的に、科学的な言葉を使った商品や社会的発言に対して、深い吟味を避け、安易に受け入れるという結果を生んでいる。さらには、本当は科学的根拠が無い商品や意見が、権威を持って世の中に出回る原因ともなっている。

血液型性格診断、ある種のサプリメントや薬事法等で認められていない医薬品や医療器具、ある種の健康食品といわれるものが、それらの例として挙げられる。「マイナスイオン」などをうたった電気製品、「室温核融合」などにも、科学的根拠が無いままに受け入れてしまうという例を見ることができる。また「統計学」の言葉である「誤差」とか「確率的」といったことを鵜呑みにすることにより、風聞に踊らされた事件も少なくない。

科学を装った言葉に対して批判的に対応するということは、我々の日々の生活の安全を図るという意味でも正しい政策決定を行う上でも、益々重要になっている。分からないことは、恥ずかしがらないで仲間と議論する、他人に尋ねてみる、またウェブサイトで得た検索情報を鵜呑みにしない、などが必要な態度である。